2006   vol.17


特集 「ご苦労様!安達先生」


 「創形よ永遠に」

前研究科主任 安達時彦
創形での想い出を書いて欲しいとの依頼に応じたものの、想い出に浸るにはまだ少々早いのだが永い間の私の棲み家でもあったのだから思いだしたら切りがないけれど、まあ肩の力を抜いて浮かんでくるままにその時々のことなどを少しばかり書いてみようと思う。

5月6日ゴールデンウィーク明け、快晴。締切り間近かの作品がまだ未完のまま菜園に野菜の苗を定植するために一日中を野良仕事に楽しんでしまった。頼まれている原稿も気になってはいるのだが、まだ日はある。定年退職後と云っても案外気忙しい。ちょっとやそっとで結着のつきそうもない長年にわたり気掛かりなまま貯め置いてしまった雑事が山ほどあることも判っている。とりあえず目の前に迫っている展覧会の締切りとその他に費やす時間を塩梅しながら暮らしてみようと。おかげさまでこの春から毎日が日曜日になった。我が儘に使えるのが日曜日であるから、これがまた大敵である。自分本意の優先順位はあるのだが。ただ、今までのように毎日がワサワサと過ぎては行かない。日々これ好日といえるのかも知れない。

創形はその沿革にもあるように、1969年に目白で産声を上げた。私がすいどーばた美術学院の講師になった年なのでよく覚えている。すいどーばた美術学院のプロフェッショナル・コースとして誕生したそれは、画期的な内容を自負する美術学校としての船出であった。3年後に国立市の新校舎に落ち着き、以来創形美術学校は日本の美術教育にとって重要な位置をしめる伝統を育んできた。そして2000年に今の池袋へとその伝統に根ざした新しい時代の教育を求めて移って来たのだが、早6年が経ち今こそ創形の真価が問われる大切な時代を迎えている。

私が創形に直接かかわったのは15年間であるが、その一年一年は全てが新鮮であり緊張の毎日でした。予備校の指導に20年も携わっていた私が創形で何が出来るのか、悩み、研究もした。すいどーばたと創形は同じ血液が流れているとは云え、教育の目的や役割は大きく異なり、それと同時に教師はまず自らが作家でなければならないという誇り高き必要条件が暗黙の資格となっていた。デザイン科の新説と時を同じく、造形科の新任として私と上葛明広氏、吉武研司氏が着任した。造形科のみならず創形自体が大きく変わろうとしていた。日本は経済の異常な高度成長がついに破綻し混沌の時代に入り込んでいった。難しい時代に向かって創形も例外ではない。毎日が悪戦苦闘の連続だったが、学生達と一緒にいる時は一番うれしかった。そして2000年の1月コートギャラリー国立で私の個展があった。その年の春、学校は池袋の新しい校舎に移った。9年間を語り尽くせはしないが国立校舎での全てが懐かしく思い出されてくる。

池袋の新たな出発は、少々の戸惑いはあったものの概ね順調にすべり出した。しかしながら私自身は何時も何処かで不安と乾いた緊張感を拭えず6年間を過ごした様に思える。それは当然の事なのだ。そうでなくてはならないとも思う。日々になじみ過ぎてはいけないのだとも思っていたから。難しいことだが水槽の魚は水の濁りに敏感でなければならない。外側から観れば一目で判るその濁りを、内側からいち早く気がつきたいといつも願って過ごした。私は学校に対して今何を考えて、何をしたらよいのか、学校は私に何を求めているのか、学生達の顔を観、絶えず考えて続けてきた。創形の15年間を含め、すいどーばたの講師になってから高澤学園で過ごした36年間、私は幸せだった。色々な事があったけれど過去は全てが平面化されてしまう。時の遠近は曖昧になり、幾多の苦い思い出さえもただ懐かしさに変わる。退任記念講演会の夜、大勢の卒業生や仲間達に囲まれて名残惜しかった。3月30日のお別れの夜も朝まで付き合ってくれた同僚達。到底ここでは言い尽くせない。私の人生の殆どが高澤学園に詰まっている。創形は私が生きてきた館であり、そして育った最後の棲家である。
2006年6月2日

支部だより
埼玉支部「Branch展」報告  
榎本朋恵
ファインアート科33期
同窓会埼玉支部主催の展覧会(ブランチ展)に参加して、初めてお会いするたくさんの大先輩に囲まれて、少し緊張もしましたが、学校を卒業してから、作品について語る機会も仲間と楽しく話す機会もすっかり減っていたのでブランチ展をきっかけに先輩方の面白い雑談やさまざまなタイプの作品に触れることが出来、又、ブランチ展開催にあたり、創形美術学校を昨年退任されました、安達先生がお祝いにかけつけて下さるなど、自分が作品をつくっていく上で、とても励みになり、すべて良い刺激となりました。

刺激といえば、川越の街もとても魅力的でした。美術館に着くまでに、「大正浪漫通」や「蔵作りの街並」など興味深い建物や、お店が軒を連ねて並んでおり、川越が小江戸と呼ばれる訳がなんとなく分かる気がしました。駅から美術館までは少し距離がありましたが、とても楽しい時間を過ごすことが出来ました。

 今後もこのような活動が増えていき、又、参加者も増えていき、創形OBの交流の場として長く、根強く浸透していく会に発展していくことを心から願います。
  
  

 
2005年度 同窓会特別賞
毎年恒例の同窓会会員により選出される特別賞の選考が3月12日卒業制作展会場にて行われ、以下の2名に決まりました。受賞者には賞状と副賞として賞金3万円が授与されました。
  
網島愛子
   吉岡さやか
(ファインアート科絵画専攻) (ビジュアルデザイン科イラストレーション専攻)
「人」(紙・木炭) 「さやかのSM占いデリバリーサービス」(紙・水彩)
   
  
  
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